cyciatrist 自転車と精神科医療とあとなんか

ボストン留学帰りの精神科医。自転車好き。

睡眠医学の権威Kryger先生、医学雑誌でトランプ大統領をディスる

Kryger M. What can tweets tell us about a person's sleep? J Clin Sleep Med. 2017;13(10):1219–1221.

JCSM - What Can Tweets Tell Us About a Person's Sleep?

 

Meir Kryger先生はかの有名なYale大学の教授であり、睡眠医学においてはほぼならぶもののない一番の権威である。

https://medicine.yale.edu/intmed/pulmonary/about/meir_kryger-2.profile

睡眠医学では最も重要な教科書(めちゃくちゃ分厚い)であるPrinciples and Practice of Sleep Medicineの第一著者として知られていて、睡眠時無呼吸症候群の治療を世界に先駆けて研究開発した第一人者である。

http://www.sciencedirect.com/science/book/9780323242882

そのKryger先生が今号のJournal of clinical sleep medicine誌にLetterを投稿されていた。タイトルはWhat can tweets tell us about a person's sleep.

JCSM - What Can Tweets Tell Us About a Person's Sleep?

念の為に書いておくが、Journal of clinical sleep medicineは2016年のインパクトファクターが3.429となっていて、Sleep誌に次ぐ睡眠医学においてはまあまあ重要な雑誌である。アメリカ睡眠医学会のオフィシャルジャーナルとなっている。今回の投稿はLetter to the editor として行われていて、原著論文ではない。Letter to the editorはほぼすべての科学雑誌が採用している投稿方式の一種類で、編集者への手紙という形で掲載される文章で、査読を必要としない形式である。Letter to the editorは査読がないため科学者としての実績にはほぼならず、通例はちょっとめずらしい症例報告や、論文にまで至らないわずかな知見、他の論文への批評などが投稿掲載されることが多い。

さて、そのLetterの中身であるが、タイトルとしては「ツイッターでどれくらい人の睡眠状況が分かるか」という記事であることがわかる。内容としては一応Method,Result,Discussionが記載されていて調査の形式を取っていて、タイトルにはトランプ大統領の名前は入っていないが、行われているのはトランプ大統領ツイッターの分析である。要するにトランプ大統領ツイッター投稿時間を調べると夜間にも投稿することが多いので睡眠時間が短いのではないか、いわゆるショートスリーパーなのか不眠なのかどうなのか。というような内容である。

しかし、問題は序文のBackgroundである。書き出しはこうだ

There is a great deal of public interest in whether President Donald J. Trump is sleep deprived, and whether this may be an explanation for his sometimes apparently inconsistent actions. 

 「 this may be an explanation for his sometimes apparently inconsistent actions.」!!!翻訳すると、「トランプ大統領が睡眠不足かどうか、また睡眠不足が大統領が時折示す明らかに一貫しない言動の説明となりうるかは公の興味である」である。大統領が一貫しない言動を取っているなんて言い切っている。こんなことを言って良いのだろうか、、、しかもLetterとはいえ学会が所有している公的な科学雑誌である。かなりびっくりした。

後半はまあまあ穏やかな議論が行われていて攻撃的な表現はないが、ある時期を境に2つあるツイッターアカウントのうち片方の投稿頻度が減少していて、もしかすると投稿しているのは実際はトランプ大統領だけではなくて複数人いて、そのうちの誰かが首になったりして人数が減っているのではないかというようなDiscussionが行われている。まあなんというか皮肉。

The pattern of Tweets and admissions suggest that President Trump sleeps less than is recommended for optimal health and performance. It is unknown whether he is a “healthy short sleeper.”

が結論であり、「ツイッターの状態からはトランプ大統領の健康が心配される可能性がある。いわゆる健康なショートスリーパーなのかはわからない」とのことであった。

Kryger先生はこの雑誌の発行元であるAmerican Academy of sleep medicineのプレジデントだったこともある先生であり、今のeditorもそんな先生からLetterが来たら掲載は断れないのかもしれない。Kryger先生はもうかなりお年だろうし、なにかあってももう気にならないのかな。。。

しかし、トランプ大統領のアメリカでの嫌われ具合はすごいですねぇ。悪魔のように扱われることも多いし、、、

ちなみにこのLetterの内容については、Kryger先生は「機関にサポートされた研究ではなく、経済的利益相反はない」としている。