脳震盪後のけいれんのビデオをYouTubeで検索したという論文
Epilepsia. 2016 Aug;57(8):1310-6.
Concussive convulsions: A YouTube video analysis.
脳震盪後のけいれん。YouTubeビデオでの調査。
掲載雑誌はEpilepsia。IF 5くらいの雑誌。てんかん専門誌では最高権威の雑誌。
面白い論文だったので。
脳震盪後のけいれんが記録されているビデオをYouTubeで検索して分析したという論文。
脳震盪は頭部に強い衝撃を受けた際に生じる症状であり、軽度から重度の意識障害を呈する。要するに「脳が揺れてダメージを受けて意識がなくなる」。
殆どの場合は一時的な意識障害のみが症状だが、重症例では頭部に衝撃を受けたあとにけいれんすることがあることが知られていた。しかし、このけいれんは比較的まれな状態で、実験で再現することも困難であり細部については医学的な知識は限定されていた。
ということで今回の論文。
様々な検索語を使用して調べたところ、脳震盪後のけいれんが映っているビデオが25例、YouTubeにアップロードされたビデオから見つかった。
発見された25例中、けいれんの原因になったのは
暴行6例
スケボー5例
MMA(格闘技)4例
ボクシング3例
サッカー2例
BMX2例
ラグビー、ホッケー、バスケ1例ずつ
という結果。
感想としては、スケボーってやっぱり危険なんだね、という、、、MMAやボクシングより多いとは思わなかった。スケボーの場合練習中からビデオを回していたりということもあって記録されているのが多いというのがあるのかもしれないけど、、、
他の結果としては、発見された全25例中、ほとんどの症例では2回以上頭部に衝撃を受けていた。全体で男性は24例、女性1例で圧倒的に男が多い。ヘルメットをしていたのは25例中たった1例だったという。
今回の知見として、脳震盪後のけいれんには2つ相があり、強直したあとけいれんする。
けいれん前の症状初期の強直相ではフェンシング肢位をとる事が多い。(昔のK-1でピーター・アーツか誰かがノックアウトされた時に片手を上げたまま硬直して倒れていったのが思い出される)
その後3-10秒くらいでけいれんが始まるようである。
このリンクのファイルに論文内でみつかったYouTubeビデオのリンクが載っている
epi13432-sup-0001-SupInfo.docx
いくつか見た感想としては、スケボーはやはり危険。ジャンプして高いところから飛び降りるトリック中に板がなにかに引っかかって足がすくわれたような形になり、半回転して頭から落ちている。受け身が取りにくい。BMXを少しかじった身からすると、BMXはヤバイと思ったら自転車を投げて自分は転がるということができるため、そんな簡単には頭から落ちない。だから、上級者になると簡単に一回転するようなトリックができる。しかしスケボーはどうもそうは行かないようだ。
てんかん発作や夜間の睡眠行動異常は突発的に起こり、いつ起こるか予測ができないため、医師が直接観察することが難しい症状である。なので、必要時は入院下にビデオモニタリングを行い症状を観察する。これはてんかん発作や睡眠行動異常が繰り返し起こる症状だから可能であり、また一度の症状の発現で致死的になったり障害が残ったりしにくいから可能な方法である。
脳震盪後のけいれんも同様に医師が観察することが難しい症状であるが、これは入院後に狙って起こすことが出来ない一度きりの症状であり、また致死的になったり障害が残る可能性のある症状であるため、てんかんや睡眠行動異常と同様の戦略が取れない。そのため、YouTubeなどの大量で容易にアクセスできる形でビデオが残っている場で検索して見つけるというのは正しい方策であり、それによりこれまでほとんど医療者が見ることができなかった症状を集積し分析するすることが可能になっている。面白い論文。
現在はかつてないほど映像の記録及び公開が容易な時代であり、その恩恵を受けた論文とも言えるが、今後はさらに映像の記録や公開が容易になると考えられる。他のタイプの突発的な症状・現象がもっと捉えられるようになるかもしれない。
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1525505017304225
こっちはPinterestでてんかんについての投稿をしらべた論文。