cyciatrist 自転車と精神科医療とあとなんか

ボストン留学帰りの精神科医。自転車好き。

メンタルクリニックと睡眠医療

昨今の医療事情では医療機関の経営も決して安泰ではなく、メンタルクリニックの開業においては、都内ではクリニックが飽和状態となりつつあり、普通のメンタルクリニックのみではなく個性が必要となってきているように思います。また、クリニックのホームページサイトも様々な工夫が見られますし、google検索結果などでも大きく宣伝を行なっているのを目にします。ある複数のメンタルクリニックを経営する医療法人は年間2億円の宣伝費を計上していたという話も聞いたことがあります。また、メンタルクリニックの名称についても「心療内科」や「精神科」「こころのクリニック」「メンタルクリニック」など色々な名称が採用されるようになっており、むしろ「医院」などシンプルで精神科医療を想像させないような名称をつけるクリニックも増えてきているように思います。

クリニックの開業地も工夫が必要で、いわゆる駅前で便の良い場所はすでに飽和しているため、戦略を練ることが必要です。インターネットでは「コバンザメ商法」として、ある程度流行っているクリニックで、院長先生が引退間際のクリニックの間近に開業しておこぼれをもらいながら引退を待つという戦略すら紹介されているのを目にしました。看板も昔からの病院名を掲げた看板のみではなく、かっこいいロゴを作って認知を計る病院も増えています。医療の質のみでは勝負は難しいようです。

メンタルクリニックで診療する疾患としてはうつ病躁うつ病、不安障害、心身症統合失調症認知症てんかん様々な疾患がありますし、訪問診療(アウトリーチ)、リワークといった領域や、発達障害ADHD診療といった新しい分野もあります。が、不眠症、過眠症といった睡眠障害も依然としてメンタルクリニックの対応疾患として重要です。これらの睡眠障害にはポリソムノグラフィー(PSG)と呼ばれる特徴的な検査が行われます。PSGとは、脳波をはじめとして呼吸、四肢の運動、あごの運動、眼球運動、心電図、酸素飽和度、胸壁の運動、腹壁の運動、体位、体動、血圧などの多数の生体センサーを取り付けて一晩寝てもらう検査で、検査する方も受ける方もかなり大変な検査です。また、検査結果の解析もなかなかに大変です。しかし、この検査は保険点数が高い(収入が高くなる)検査であるため、この検査に挑戦するクリニックが増えてきています。検査は「一晩泊まる」つまり入院する必要があるため、入院施設を持ったクリニックを作る必要があり、作るところからかなり大変な検査です。また、入院病床の数は地域ごとに決められているので、その地域に空きがなければクリニック自体を作ることができません。資格としては睡眠医療認定医という資格があり、この資格を持っている医師は睡眠医療の専門家と言えます。また、PSGを患者さんに取り付けたり、データを解析したりするのは技師さんの役目になりますが、技師さんにも睡眠医療認定技師という資格があります。なかなかこの資格を取るのも簡単ではありませんし、資格を持つ技師さんを雇うのも大変です。

また、ライバルとしては睡眠時無呼吸を診療する呼吸器内科医がライバルとなるので、それもなかなか手強い相手となってきます。

今後は軽装備の診療所はなかなか収益が上がらなくなってきて、専門性を打ち出したクリニックが良い収益性を得て行くことになると思いますが、それには初期投資及び技術投資が必要であり、継続的に努力をして行くことが必要です。また、PSGの保険点数は現在では高額ですが、今後の保険点数改定で徐々に下がって来る可能性もあります。そうすると高額な初期投資をしても回収できなくなって来るかもしれません。

上記のような、「専門性、初期投資、継続的な努力」などことは医療ではない業界では当然のことかもしれませんが、今後は医療においてもきちんとした経営を行って行くには必要なことになるのかもしれませんね。

 

沖縄県で唯一と言っていい高いレベルの睡眠医療施設。

この施設ではメンタルクリニックではなく、精神科病院に併設する形で睡眠外来がもうけられていて、PSGを入院で行う形になっている。 

www.hojinkai-group.com

今後はクリニックよりもこういう形が増えるかもしれない。やはり病院のような資本の大きいほうが強いかもしれない。