読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

cyciatrist 自転車と精神科医療とあとなんか

ボストン留学帰りの精神科医。自転車好き。

「事務所」と「医局」

考え 医療


blowing in the wind / michale

今回のSMAPの騒動はご本人たちには申し訳ないですが、とても興味深く観察しました。

経緯やジャニーズ事務所の横暴さ、SMAPメンバーの心理等は様々なブログ等でも取り上げられて、いろいろな視点があってどれも面白かったです。

僕個人としては「もうすでにSMAPには名声が充分すぎるほどあるし、自分を偽ってまで事務所に残ること無いんじゃないかなぁ」と思ったのですが、そのあとハッとしました。

僕自身が今現在、医者として医局をやめる決心をしたばっかりなのですが、「医局」って「事務所」と似たような機能を持っていますよね。「医局を離れる僕」と「事務所を離れられないSMAP」という対比に気づいてしまったんです。

医局や事務所といった「組織」はどれも似たような特徴や構造を持っています。その特徴故に離れるのに困難が伴うものなんだと思います。

 

「組織」に所属するメリット

「医局」や「事務所」といった組織に所属するメリットってどういうものがあるのでしょうか。

こういった組織は人を派遣する機能を持っています。強い医局や事務所は良い職場をおさえています。ですので、強い医局や事務所に所属すると良い職場に派遣してもらえます。これが一番大きなメリットでしょう。「良い職場」とは給料がよく、やりがいがあって、職場環境が良く、あわよくば名声も得られるような職場です。また、組織が職場をあてがってくれるため、そういった職場を自分で探す必要が無いというメリットがあります。また、組織のバックがあるので、自分の実力以上の職場につくことも出来るかもしれません。

「組織」に所属するデメリット

やはり「上前をはねられる」ことでしょうか。芸能事務所の場合、芸能人が独立すると収入が激増すると良く言われます。医局ではそういうことはありませんが、医局からどこかの病院に派遣される際に給料が安めということはあるかもしれません。

また、「望まぬ職場に派遣される」というリスクも有ります。芸能人では恥ずかしい仕事があるかもしれませんし、医師だと激務で薄給の職場で数年仕事をしなければならないかもしれません。

 

逆に所属しない場合では、上記の逆で、「仕事を自分で探さなければならないけど、好きなことだけできるし、うまくいけば収入も高くなる」というメリット・デメリットがあります。

基本的にこういうことを天秤にかけて組織に所属するしないを決めれば良いと思うのですが、SMAPの場合、これだけでああいう結果になったのではないように感じます。

 

組織が出来ると「組織を保つための力」が生まれる

本来であれば人を派遣するしないの機能を持つ組織なので、良い職場に人を沢山派遣できる組織が生き残ってそうでない組織からは人がどんどんやめていけば良いだけになります。でも、実際に組織に所属すると様々な理不尽に付き合わなければならなくなりますし、良い意味でも悪い意味でも本来の目的の良い職場への派遣以外のことも増えてきます。

1. 所属すること自体が目的になる

ジャニーズ事務所に所属するということは、オーディションに受かることも必要でしょうし、大変なことです。ですので、所属しているというだけでプライドがある程度満たされることになります。僕も卒業した大学の医局で、母校愛もあって所属することで満たされるものもありました。また、長く所属すると人と人とのつながりもできるので、徐々に愛着がわくのは人としても当然のことでしょう。こうして所属することだけで満足して、理不尽に耐えるような人が出てきます。これは組織自体の「魅力」なので基本的には良い力だと思います。

2. 所属を離れることに罰が出来る

「脱退したら仕事させないぞ」というやつです。組織を離れていく人に対して、組織が業界に働きかけてその後の仕事を得られないようにするというという圧力です。医局も昔は教授が周囲の医師会などに働きかけて脱退者の開業したクリニックを冷遇するということがあったようですが、さすがにその力は医局からは失われています。しかし、芸能界ではまだまだ事務所の「干す」力は強いようで、今回のSMAPの件でもまことしやかにそのような脅しがあったなどと語られていました。これは理不尽の代表のようなもので悪い力だと思います。

 

「罰」があるというのは幻想

さて、組織に所属するメリット・デメリットおよび組織の所属が創りだす陰陽の力について書きましたが、組織の所属が創りだす力というのは基本的に「イメージ」でできているので幻想です。所属する構成員や周囲の人達が「所属する価値がある」と勝手に思ったり、「やめたらば罰がある」と思ったりすることで作られていくものです。「罰」などは法律的な根拠があるわけでもないので、本来は無視してしまえば良いはずのものです。そもそも職場がありお金を生んでいるのは業界の方なので、仕事を斡旋しているだけの組織のほうが力が上になるというのも本来はおかしな話です。

なので、組織の構成員の大半が示し合わせてやめてしまえば組織の力自体が急速に落ちるわけなので結局罰を与えることができなくなってしまいますし、業界が示し合わせてその組織からの命令を無視して脱退した人たちを使い続ければそれで済む話だと思います。

今回、SMAPジャニーズ事務所をやめられなかったのは、その幻想を結局打ち破れなかったということなのでしょう。SMAP自体がすでに充分すぎるほどのブランドであり、事務所に所属しなかったからといって今後の仕事に大きな影響があるとは思えませんし、給料単価も上がるのではないでしょうか。また、あの会見の苦渋の表情を見ると事務所に対して愛着を今も感じているとは思いにくいです。(SMAP5人の意見が揃わず解散しなければならないという「SMAP」というチームに対する愛着はあるかもしれませんが) では、なぜSMAPはやめられなかったのかというと、やめた後に仕事が充分にもらえないのではないかという不安があったのだと思います。しかし、それは事務所が創りだした「幻想」であり、SMAPほどの存在感があれば打ち破れたのではないかと僕は感じています。

 

「組織」は本来の魅力で勝負すべき

こういう状況が起こった事自体ジャニーズ事務所の力が落ちてきていることが疑われますが、SMAPを引き止めるときに「離れた時の罰」という幻想でしか引き止められなかったことは組織としての魅力が落ちていることを示しています。もう一度「なぜジャニーズ事務所は人気なのか」ということを問いなおして、所属するメリットをさらに大きくして立て直していって欲しいと思います。「やめたら怖いよ」だけだったら、組織の種類としてはまるで○クザの事務所じゃないですか。

僕の所属する医局は、都心にあり、派遣先はまあまあで、医局員たちは飛び抜けた人はいませんが粒ぞろいです。しかし、徐々に力が落ちて新入医局員が減ってきて、派遣先を維持するのがやっとになってきています。余裕がなく人が育てられず、学会等で発言力のある人は皆無です。徐々に「幻想」が解け、所属することの喜びや離れることへの恐怖感も減少しています。願わくば僕の所属する医局もまた本来の「所属するメリット」の見つめなおしをして、立ち直っていってほしいと思います。