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cyciatrist 自転車と精神科医療とあとなんか

ボストン留学帰りの精神科医。自転車好き。

医者になるのか悩むこともありますよね

2周ほど乗り遅れました。

医学部在籍だけど医者になることに悩んでいるというこの増田を読み、

anond.hatelabo.jp

これに対するセンパイ医師達の「オトナの意見」を読みました

p-shirokuma.hatenadiary.com

fujipon.hatenablog.com

ま、そうですよね。僕も医者やってますが、「医者にならないほうがいい」とはさすがに言えないです。

 

このセンパイ医師達からの「大人の意見」にはほとんど医者になることのメリットが網羅されています。

医者は

「強い資格」で「収入が高い」ので「食べるのに困ることはない」こと。また、「好きな働き方が選べる」こと。

「社会的に高い地位」があり「尊敬される」ので「モテる」こと。

「高収入で高地位」なので「道楽に力を入れられる」こと。また、「別の仕事の土台に出来る」こと。

「科学的にも先端」なので、「学術的な発展」もある「豊穣な世界」であること。

などです。医者、最高ですね。

 

医師という仕事のデメリットとしては、

「一人前になるまでに時間が掛かる」「何も考えずに働いていると激務になる」「責任が重い」

といったところでしょうか。

僕は友人の多くが医師なので、正直これらがデメリットなのかよくわからないんですよね。他の業界がどれだけ一人前になるまで時間がかかるかとか、激務なのかとか、責任が重いのかとか比較できないので、「どれだけ医者がほかのしごとと比べて大変か」というのがよくわかりません。実はあんまりかわらないんじゃないかとも思ったりします。

 

ということで、リンクのセンパイ達や僕の意見を総合すると「医者はちょっと大変だけど、なっとくとお得だからなっとけよ。その後考えな」ということになります。

でも、多分これは増田もわかってて、その上で言ってることなんだとも思うんですよね。多分増田にとっては「エンジニアになる」ということが質的に異なる意味を持っていて、いくら医師が渡世に便利でメリットを言われても「オトナはそう言うし、それはわかるけど、でもエンジニアになりたい」と考えるだけなんだと思います。

そんな増田に僕らが話せるのは「オトナの意見」だけです。でも、そんなオトナの意見では増田の「打算」は動かせても「本当の気持ち」は動かせないんでしょうね。増田が本当に自分が満足できる選択をすることを願っています。

 

さて、以下は引用した記事になかった僕の考える医者であることのメリットです。

「モラトリアムが長い」:僕自身が4年制大学で就職していたら完全に潰れていたと思いますね。21歳で就職活動とか、想像つかないです。21歳のころの自分を考えると幼すぎて一般社会に出たらすぐに潰されていたと思いますね。面接官に生意気なこととか言って内定とかもらえなかったと思います。6年間の学生が終わって、24歳くらいで研修医が始まって、それでも庇護的に扱われて、26歳くらいでやっとまともに仕事ができるだけの人格になったと思います。それだけの時間がもらえて良かった。

「役割や目的がはっきりしている」:医者という仕事は面倒なことも多いのですが、単純なこともあります。それは「目の前の患者さんの病気を良くしたい」という姿勢、気持ちがどこでいつ医者をやっても変わらないことです。いい加減な医者や能力の低い医者はいくらでも見たことはありますが、「患者さんの病気を悪くしたい」と思って仕事をしている医者は一人も見たことがありません。この、自分の役割や仕事の目的及び目標がブレずにすむのは本当に幸せな仕事だと思います。

 

また、あまり実例がなかったので、医者になった後にエンジニア的な仕事で実績を上げたもっとも良い例として放射線科の松田博史先生を提示しておきます。

松田博史先生はMRIにおいて脳神経線維の描出を可能にした拡散テンソル、SPECTにおいて一般健常人との統計学的比較を可能にしたe-ZISMRIにおいてアルツハイマー認知症の海馬萎縮を統計学的に検出可能にしたVSRADなどの開発で著名です。

放射線科はエンジニア的な仕事が多数行われている分野です。医者ではないですが、僕の友人はMRIでの心臓の描出のソフトウェアを開発しています。(動くものをMRIで捉えるのは技術的に非常に困難で、ずっと動きつづけている心臓をMRIで捉えるのは挑戦的な分野です) 

また、知人は自分で遠隔で放射線画像を送受信できるシステムを開発し、それでベンチャーを立ち上げて、放射線画像の遠隔読影の会社を運営しています。

言うまでもなくiPS細胞でノーベル賞を受賞した山中伸弥先生も医師であり、「エンジニア的」と言ってもいい仕事だと思います。

超音波検査の基礎を作ったのも日本人の脳外科医だと聞いたことがあります。こういった放射線系の検査機器や方法はエンジニア的知識・技術が活かされる分野と思います。

 

また、精神科医で脳科学に携わるものとしては、エンジニア的な能力が今後の脳科学にはとても必要だと考えているので、エンジニア的思考のある人が医者になって、精神科医になって、その能力を脳科学の研究に活かしてもらいたいと思います。

人間を生体として扱えるのは医者の特権です。いくらエンジニア的な仕事を突き詰めても生体としての人間に触れることは出来ません。しかし、現在はエンジニア的な仕事でも生体とのインタラクションを意識しなければならない時代だと思います。人間とどのようなインターフェイスで人間と接するのかをエンジニアは常に考えねばならない時代です。ここで、生体として人間を扱える医者の特権が大きく活かされる事になると思います。また、逆に人間の研究、特に脳科学を研究する際にエンジニア的発想は今後とても必要とされると思います。brain-machineインターフェイスは今後の脳機能−精神疾患を研究する際に間違いなく必須の技術になると思います。そういったインターフェイスの開発をエンジニア的思考のある医師が行っていくことはとても重要だと思います。

 

最後に、僕の父の話です。

父は科学者になるのが夢で、医学部入学も可能な学業成績だったにも関わらず、理学部に入学しました。祖父は医者になってもらいたかったようで、随分がっかりしていたそうです。大学を卒業する段になって、「医者になりたいからもう一度受験したい」と言い出し、祖父に叱られて結局研究者の道を歩みました。父は研究者としてはまずまずの経歴を歩みましたが、今でも医者になればよかったかもと愚痴ることがあります。

 

僕もわりとアカデミック志向だったのに開業することになりました。増田が今後良い道を歩きますように。

 

追記:開業するクリニックのサイトが完成しました

cyciatrist.hatenablog.com