「専門家」は言ったもの勝ち
医療業界での話です
どういう人が「専門家」と呼ばれるようになるのかが疑問でした。
業界と一般の知識ギャップ
僕が知っているクリニックの院長は、勝手に専門家を名乗るのが得意です。この辺の嗅覚はすごくすぐれていて、あまり「専門家」がおらずはっきりとしたエビデンスのないジャンルで勝手に専門家を名乗りテレビ等の取材を受けてしまいます。別にそれについて研究をしたりすごく勉強したわけでもないのに。教科書的なことを簡単に説明して、取材を受けています。そうするとそういった微妙なジャンルの患者さんが来院します。充分な治療はできません。だって充分なエビデンスのある治療法のないジャンルだから。でも、患者さんは来るのでクリニックはとても儲かっているようです。そしてそういう微妙なジャンルは生死にはかかわらないので充分な治療でなくても大きな問題にもなりません。
医療業界は専門家の集団で出来た世界です。ほとんどの医療者、特に医者はそれぞれが自らが携わる医療についてかなり突っ込んだ知識を持っています。当然医者全員が患者さんより知識を持っていて、情報格差で利益を得ています。その情報格差は非常に大きく、上に書いた院長程度の知識でも一般相手であれば上っ面の知識だとバレることもなく偉そうなことが言えてしまいます。
しかし、その医者の中でも特に「専門家」と呼ばれる一群があって、彼らは学会やメディアで様々な影響力や発言力があったりします。彼らそれぞれは基本的には細分化されたジャンルの専門家と名乗っていることが多いです。
しかし意外ですが、彼らの講演を聞いて、彼らの著作を読んで、僕が感銘を受けることは少ないです。むしろ彼らの知識や技術と僕の知識や技術との差の小ささに驚くことが多いです。ずっとなぜか不思議に思っていたのですが、バイト先の院長をみていて徐々にわかってきました。
業界内での情報格差の少なさ
医療では個々の構成員の知識水準が非常に平準化されています。医療業界は専門家の集団で出来た世界であるとともに、非常に平準化された世界でもあると思います。
医療に携わる人間は、かなりの割合の人が十分な水準の知識を持っています。また、多くの医療人が共有している知識はエビデンスが明確なものであったり、実地の医療で有用なものであったりします。
逆にかなりの割合の人が知らないあるいは自信のない知識というのは、実地の医療においてほとんど出番のない知識であったりします。あるいはエビデンスが不明確であったり、実地の医療で出番が少ないものであったりします。
結果、役に立つ、よく使う、必要な知識については業界内では差がついていないということになります。そしてそれ以上のことを知っていてもアウトカムにはそれほど結びつかない様に思います。
専門家達は前に立って話すときには当然聴衆の役に立つ話をしたいと思うでしょう。また、しっかりエビデンスのある確実な話をしたいと思うでしょう。しかし、そういう話をすると医療業界では聴衆の知識と大きく乖離のある話ができないということになってしまいます。
「私は専門家だ」と言ってしまった人勝ちだと思った。
結局「私はこの分野の専門家である」と宣言してしまった人の勝ちなのだと思いました。そうすればその人が専門家ということになってしまいます。業界内で知識が平準化されて差がつかず、業界外とは知識格差が大きい医療という分野ではそれはとても効果的です。前述の院長などはそうしています。
もちろん、業界内部で批判を受けます。面の皮は厚くないとできません。僕はこつこつと実績や知識を積み重ねることで評価を受け、そういった人が専門家だと自然に認められ、表に出ていくのだと思っていましたし、そう行動してきました。でも、そうでもないようです。知識格差の少ない専門家集団内で突出した知識を有していなくても、行動力や声の大きさで「専門家」と認められてしまうのです。「私は専門家だ」と言ってしまえばそれで良いのです。主張するのはとても大事です。
僕はこれまでそれに気づきませんでした。これからは少しずつ行動を変えていきたいと思います。
*1:Rupa Panda