cyciatrist 自転車と精神科医療とあとなんか

ボストン留学帰りの精神科医。自転車好き。

「医局」ってなに


Lab Tour / jurvetson

 

以前

医局を離れることにした - cyciatrist 自転車と精神科医療とあとなんかとか

「事務所」と「医局」 - cyciatrist 自転車と精神科医療とあとなんかとかという記事を書きました。

医局ってなんなんですかね、なんか特殊ですよね。よく考えると、医療外の人たちにとって「医局」って何なのかわかりにくいこともあるかな、と思い、「医局」というものについて説明してみようと思います。

 

「医局」とは

「医局」と聞いてみなさんはどういうものをイメージするでしょうか。「白い巨塔」の教授回診でしょうか。

医局というのは簡単に言うと「医師の互助会でかつピラミッド型のヒエラルキーな人の集まり」です。横暴かつ理不尽なイメージもありますし、人が集まればそれで組織ができるというだけという見方もできます。しかし、それだけでは医局という組織が全国にあり、ここまで持続することはありません。やはり医局というものが存在するメリットもあるんだと思います。

以下に医局の特徴を書き出して、理解を深めてみようと思います。

1. 医局は大学の科ごとです

 僕は精神科ですが、消化器内科とか、脳外科とか科ごとに大学下に医局が形成されています。そして、そのトップが大学の教授です。なので、「A君は○○大学△科の医局所属だからそのボスはB教授」という感じで人に紹介されたりします。

2. 医局は決まったルールがあるわけではない人と人とのつながり

 特に「医局」を定めた一般的なルールはありません。非公式の人と人とのつながりです。大学によっては明文化されたものにサインさせたり、名簿を作ることもあるかもしれませんが、それになにか法律的なものが絡むわけではありません。別にその取り決めを破ったからといって契約違反に問われるということはないと思います。つまり、慣習や因習による人のつながりが中心です。また、医局費と言う名目で高額の年会費を取る医局もあるようですが、僕が今いるところはそんなこともなく、毎年名簿を作るため程度の費用を払っているだけです。

 ですので、本来は医局に入ったり出たりするのは自由なはずです。実際、僕が所属する医局も毎年、別の大学を卒業した医師たちを受け入れています。そして、残念ながら何人も毎年医局から出て行っています、、、また、同窓の後輩の入局が少ないのは、彼らが学生の頃から授業などを通して僕らの医局が魅力がないことがバレてしまっているのかもしれません(涙)

3. 医局は関係する病院に人を派遣する

 これが医局の機能の最も重要なものの一つです。病院が医者をリクルートするのはなかなかに大変です。また、医者側も自分で働く病院を自分で決めるのは簡単ではありません。なので、医局が病院と医者をマッチングする機能を担っています。 

 これも特に明文化された機能ではありません。よくあるパターンは、〇〇病院の△科の部長がうちの医局出身だから、そこには人を送るという形です。その〇〇病院△科の定員全部が同じ医局で占められることが多いですが、数人ずつ違う医局から人を受け入れている場合もあります。多くの場合、その病院中から一人別の病院に移ると、一人また新しい人を医局から派遣するのが慣習です。

 この流れがうまくいくと、派遣先の病院の人員は非常に安定します。派遣されてくる医師を医局があらかじめ選別してくれるだけでなく、メンバーが同窓意識を持つためチームを組むことが容易になります。また、揉め事があっても医局のお偉いさんに取り持ってもらったりもできます。

4. 医局の関連病院の中で人を育てる

 これが若い医者が医局に所属していることのメリットになりえます。若い医者としては2年か3年ごとにいろいろな特色のある病院を回って、様々な技能や経験を得たいと考えています。また、最近は専門医を取得するために幅広い疾患の経験が求められるため、その取得のためにもいろいろな病院を回るのは必要なことです。しかし、そのために数年ごとに自分で病院を調べて、比較して、就職活動して、、、とやるのは非常に大変です。そのため、この機能を病院に人を派遣する機能を持っている医局が代行してくれます。ただ、このなかで「お前は2年後は良い所に行かせてやるから2年間はここで我慢しろ」などということもあり得るのがデメリットです。大きくうまくいっている医局であれば「留学したい」や「どこそこの病院に行きたい」というような個々の医局員の意をくんだ人事ができますが、そうでなければみんなが不満を持つことになります。

5. 医局の中で情報交換ができる

 地方での学会などいくと、多くの医局員たちが全国の病院から集まり、飲み会などが開かれます。そのなかで様々な活動をしている先生方の話を聞くことができ、いろいろな情報に触れることができます。その中で、ロールモデルとなる先輩を見つけ出すこともできるかもしれません。また、専門医等の資格や、特殊な技術などは一人で身につけることは困難であり、医局内での情報を頼りに勉強したりすることはとても重要です。

6. 関連病院の科の後ろ盾になる

現代は医療の経営は容易ではありません。そのため、病院に勤める部長、医長などの管理職は院長や経営陣からの強いプレッシャーにさらされています。時には医者の人員を減らして現在と同じ仕事をしろなどというプレッシャーを受けることもあるかもしれません。こういったプレッシャーを受けた時に部医長はなんとか抵抗するわけですが、医局の後ろ盾がないと抵抗もしにくいところがあります。医局と円滑な関係が築けていれば、医局から病院の上層部に「そんな理不尽を言うなら人員を引き上げるぞ」などとプレッシャーをかけてもらうことで部医長が病院側と戦うことができます。

 

医局はこのように病院に人を派遣する機能を中心として様々な機能を持って存在しています。最近は若手医師は医局に関係せず自分で病院を探して就職する傾向にあって、徐々に医局の力が弱まっているところがあります。その反面、指導医クラスも人事が流動的になっているところがあるので、病院が指導医を押さえておいて自前で若手を育てるというプロジェクトを継続的に行うのも容易ではありません。また、そういった病院内部のみで医師を育てるという形式になるとgeneralな手技等では一流の医師が育てられても、真に先進的な医師が育たないという問題点も生じます。真に先進的な医師は様々な環境を経験し学ぶことで生まれるものです。そういった環境は病院横断的に存在する医局という機構でしか準備することはできません。(真の一流は自分で見付けるのかもしれませんが)

僕がいた医局はかつては超一流でしたが、今の教授になって急速にしぼんでしまい、関連病院を維持するだけで精一杯になってしまいました。僕は医局を離れることになりますし、今後も時代の流れで医局の影響力というのは下がっていくと思われます。しかし、同窓を中心とした仲間の集まりはうまくいっているときは居心地が良いものでもあり、存在する価値はあると思います。

みなさんも病院にかかることがあれば主治医の先生の所属医局を聞いてみても面白いかもしれませんよ