cyciatrist 自転車と精神科医療とあとなんか

ボストン留学帰りの精神科医。自転車好き。

2008年プロ野球ドラフト

2008年のプロ野球ドラフト会議。

ぼくの贔屓の広島の2008年は3位と2ゲーム差の4位で終了。

前年に新井が抜け、野手では嶋、前田が力を落とし、栗原が一人頑張るものの梵もまだまだで今後に期待の持てる選手はあまりおらず、強打の選手が絶対に欲しかった年だと思います。

投手としては前年に黒田がメジャーへ行っていますが、2008年はマエケンが18番をつけた年で、まだデビュー2年目ですが9勝しました。そしてルイスが大車輪、大竹・永川がしっかり仕事をしていました。中継ぎ不足や先発コマ不足はあるものの少し軸は見え始めていたように思います。

 

それではドラフトを見てみましょう。

全体でのドラフト会議の結果として超一流レベルはおらず、成功した選手としては、浅村選手(内野、西武)、西選手(投手、オリックス)、摂津選手(投手、ソフトバンク)、長野選手(外野、拒否)、大田選手(内野、巨→ハム)だった年です。

どちらかというと全体では不作な年と思われます。ドラフト1位で本当に一流と言えるような成績になった選手は一人もいません。

大田選手はドラフト1位、長野選手が2位と上位。

浅村選手、西選手は3位と中位。

摂津選手は5位と下位でした。

長野選手、浅村選手、西選手、摂津選手を一流選手

大田選手、野上選手は一流に近いがギリギリ主力選手と評価しました。

 

全体での指名順としては

大田選手は1番、長野選手18番、野上選手24番、浅村選手25番、西選手27番、摂津選手57番 でした。

領域別の番手では

野上選手大社投手8番、浅村選手高校内野手4番、西選手高校投手9番、摂津選手大社投手18番 でした。

 

摂津選手は下位でしたので、全ての球団で成功の予想が難しかった選手。しかも大社ですが即戦力ではなくプロに入ってから一軍デビューまで数年かかっています。獲得して育て上げたソフトバンクを褒めるべきで、上位指名で獲得しておくべきだったと贔屓球団のスカウトを責めるのは間違いでしょう。

長野選手は巨人への希望が強かった選手ですので、手が出しにくかったと思います。実際にこの年には入団拒否し、次年度に巨人に入団しています。

大田選手は重複指名でのドラフト一位ですので、これ以外ない指名です。

ということで、浅村選手、西選手を指名できた球団(西武、オリ)がこの年はドラフトとして成功したと言えそうです。

 

広島東洋カープ

1位 岩本 貴裕
2位 中田 廉
3位 小松 剛
4位 申 成鉉

の指名。結果として、岩本はギリギリ戦力となるかどうかで十分な活躍はできず引退、中田は数年間戦力となり現在も現役でいますが、高校卒で活躍するまでには時間がかかりました。3位、4位は残念ながら1軍出場はなりませんでした。

全体での指名順は、岩本1位(重複なし1位指名)、中田17位、小松32位、申41位

岩本は1位指名で、スカウトが本気で活躍すると予想しての指名なのでしょうからやむなし。

中田は2位指名。他球団の2位指名を見回すと、中田より明らかに大きく活躍した選手では野上選手がいます。立岡選手とは中田選手同等として、それ以外も中田選手と同等かそれ以下しか見当たりません。野上選手は獲得できた可能性があるとはいえ、野上選手は大社の選手で、中田選手は高卒ですから少し補強ポイントが違ったのかもしれません。そう考えると中田選手の2位での指名はまずまずでしょう。

そうすると3位で浅村選手か西選手が獲得できればよかったということになりますが、全体での指名順が浅村選手25番、西選手27番で、小松選手32番の前にすでに指名されてしまっており、広島としては3位で指名できるチャンスはなかったということになります。2位で中田選手と同じ高卒投手の西選手を獲得できていればとの思いはありますが、高卒投手という領域内での指名順は中田選手5位で、西選手は9位。これは他の球団からも西選手がそこまで高く評価されていなかったということで、2位で指名するのはやはり難しかったのではなかったでしょうか。

 

こうやって振り返ってみるとやはりドラフトというのは難しい!広島はそれほど変な動きをしているわけではないですが、現実以上に良選手を獲得できたという道はあまり広くなさそうでした。

ただ、疑問としては、なぜ4人で指名を終了したのかというものがあります。新井、黒田が抜けて緒方、前田、嶋が力を落としているという明らかなチームの過渡期であり、サブを見ても丸・松山がいるものの魅力ある若手もあまり見当たらないように思いました。ですので、もっと大量に指名して当たりが出るのを期待してもよかったのではないでしょうか?そうすれば、下位で摂津選手や辛島選手が獲得できたかもしれません。

 

指名順などを打ち込んだexcelを貼っておきます。

 

プロ野球ドラフト

僕は広島カープファンです。

 

数年前に25年ぶりの優勝から3連覇を見れて本当に嬉しかったです。日本一にはなれませんでしたが、素晴らしい戦いだったと思います。タナキクマル、神ってる誠也、黒田・新井の復帰、ジョンソンの沢村賞、勝ちパの活躍などそれぞれの選手の物語も素晴らしかった。

25年前に優勝した後、大野・川口・北別府時代にファンになったので、僕自身初めての優勝の目撃でした。正直弱すぎたのでこの10年くらいはカープを追うことが少なくなっていました。その理由は弱いだけではなく、有望新人投手がすぐに怪我で思うように投げられなくなっていくことに非常に不快感を感じていたからというのもあります。山内、澤崎、小林幹英。。。彼らはもっと投げられたんではないのか?運用に問題があったのでは?等々、、、そしてさらにカープは弱く、魅力のないチームになっていきました。

それはドラフトの逆指名・自由枠制度が大きく影響していたと思います。他のチームが有望選手から逆指名を取り付ける中、広島は全く取り付けられず、有望選手を獲得することができませんでした。チームが弱くなっていくのは当然です。

その後、2006年に自由枠制度は撤廃され、その10年後2016年にカープは25年ぶりに優勝します。中心選手は2006年に自由枠と関係なく獲得できる高校生ドラフトの會澤から始まって毎年高校生を獲得して主力に育てられ、そして2013年の大瀬良・久里・田中という大成功即戦力ドラフトによって獲得されたものでした。自由枠制度が維持されていたら絶対に獲得できなかったと思われる大社選手たちと、自由枠制度下でコツコツとドラフトのノウハウを蓄積した結果獲得できた高校原石選手たち。自由枠制度撤廃が10年後のカープの優勝につながったと僕は思っています。

 

カープのドラフトは一時期上位ドラフトで疑問が出る年が続いたこともありましたが、このところは上位・中位・下位と有望選手を獲得しており、非常にまとまっていると思います。(少しまとまりすぎていて、前健・丸・誠也級の選手を獲得しに行っていないように思うのがちょっと不満ですが、、、小園はそのクラスになるかもしれないのでもうしばらく我慢します。) 佐々岡監督の即戦力投手を見る目は確実だと思います。育てる力は確実かはわかりませんが、、、

 

しかし、毎年ドラフトを見ていて、ドラフトというのは本当に難しいものだと思います。成功だったか失敗だったか、本当にわかるのは10年後です。どのチームも全く戦力にならなかったドラフト1位の選手がいます。そもそも重複指名で抽選になったドラフト1位選手ですら戦力にならないこともあります。即戦力である大社選手ですらそうなることがあるので、選手の力の見極めというのはどんなにスカウトが頑張っても難しいものなのでしょう。チームの補強ポイントと、それにあった選手がいるかどうかはまた別ですし、順位をどう決めれば欲しかった選手が取れるのか。一つ順位を落とすと他のチームに取られてしまうかもしれません。選手は怪我を隠しているかもしれないし、裏で素行が悪い可能性もあります。5年後に急に伸びて球界を代表する選手になることもあるけど、それを予想するのは難しいですよね。

 

ということで、カープのドラフトは本当にうまく行っているのか、過去のドラフトで、もうちょっと良い立ち回りはできなかったのか、を検証してみたいと思いました。

対象は2008年のドラフトから、結果が明らかになっていると考えられる10年前、2011年のドラフトまでです。

 

前提として:

育成や怪我の要素は基本的に無視する。→この要素を考えだすと何も評価できないので、ドラフトで将来活躍した選手がきちんと獲得できているかだけを考える。

ドラフト1位については、一番欲しい選手を選んでいるはずで、入団後活躍するかどうかの予想は難しいのであるから、これはハズレの選手を獲得していてもやむなしとする。

ドラフト2位から中位までの選手は他のチームと情報量は同じで、少なくともその選手の存在を知らないということはない。逆にいうと、ここの順位で活躍する選手は順番がうまく回ってきていたら獲得しておいて欲しい。

ドラフト下位の選手は隠し球がありうる。他のチームが知らない選手で実は有望選手を各チーム獲得している可能性があるとする。

 

選手は入団後の活躍に応じて

超一流:球界を代表。メジャー級

一流:タイトルホルダー

主力:ローテ、勝ちパ、レギュラー

戦力:敗戦処理、谷間、半分程度の出場

境界:一軍出場歴あり

非戦力:一軍出場歴なし

に分ける。この辺は恣意性が避けられないので、意見の違いは出ると思います。

 

全体での指名順を確認し、活躍している選手が上位で獲得できているか確認する。

 

また、選手を高校生投手・内野手・外野手・捕手、大社投手・内野手・外野手・捕手に分けてそれぞれの領域内での指名順を確認し、活躍している選手が上位で獲得できているか確認する。

 

これらによりドラフトでの立ち回り、ドラフトの結果を検証してみたいと思います。

 

ドラフト結果・選手の成績等については以下のサイトを参考にしました。

http://pospelove.com/index.htm

大坂なおみ全米オープン優勝

大坂なおみってほんとかっこいいよね。すごいファン。

なんというか、両価的なものをたくさん合わせ持っていて、それでそれをスポーツでの強さで解決してしまうというか、、、

強さと弱さ

不安定さと落ち着き

純粋さと混沌

悩みと思い切り

怒りと許し

こういったものが彼女の中に同居していて今にもバランスを崩して倒れそうなのに、最後に大きな大会で勝って解決して高みに登ってしまう。今回もそうで改めてすごいなと思ってしまった。

 

大坂なおみの話し方

彼女は在米歴も長くなって、ほとんど向こうでの生活で文化的にもアメリカに染まってしまいそうで、来歴や見た目も、言えば日本人的ではない。なのに、話し方はすごく日本人女性的なことに驚く。アメリカ留学中に見た、「日本にきた白人アメリカ人男性に日本で見染められて結婚して連れられてアメリカにきた」美人日本人妻たちは英語が上手くなってもだいたいあんな感じだった。逆に自分からアメリカにきてそこで結婚した女性たちはまた違った印象だったが。

いつもはにかんだ様子で、話し始めはSo...とかWell...とかUhmm...とか言って、会話では声を張りあげたり強く言葉で主張することもない様子は、相当アメリカ的には違和感あると思う。いわゆるアメリカ社会で成功する女性像とは全く違う。あの態度を維持しながら、アメリカで自分のチームを運営していくのはとても難しいことだと思う。でもできていて成功している。すごい。

あの控えめな態度は、多分、一部のアメリカ人男性からはすごくモテるのではないだろうか。アメリカ的な強さとオリエンタルな柔らかさが同居する感じは好きな人はすごく好きだと思う。蛇足だが。

 

大坂なおみのBLM活動

彼女のBlack Lives Matter運動へのコミットについては複雑な気持ちで眺めていたが、それも今回BLMの文脈のマスクをしてアピールして、そして優勝するということで解決してしまった。すごい。

僕は大坂なおみのBLM運動へのコミットを純粋な気持ちで見つめることはできなかった。それは、以下の1.2.3.のような前提があるからだ。

1. BLMは僕の理解ではアメリカローカルの運動という側面があるから。

BLMはグローバルに支持を得ている運動で普遍的な差別を扱っている運動ではあるが、その本質はアメリカローカルの運動であると思う。アメリカにある「システマティックな人種差別」を問題としていて、それを打ち倒すことを目的としていると思う。(以下リンクなど参照)

アメリカ黒人殺害事件…前代未聞の「抗議デモ」その深すぎる闇(笹野 大輔) | 現代ビジネス | 講談社(1/6)

BLMは個人での差別、個人の心の中にある対人的な差別心はあまり問題にしていない。というか、そういうのは当然悪いことであって、そういう個人での差別はバカな奴がやっているので教育が必要なだけだという考えがあると思う。その上で、BLMが問題にしているのは「システマティックな人種差別」で、上のリンクにあるような表面上は個々で差別がないように異人種間で対人上の人間関係が築けても、結局「就学・就職や起訴などにおいてシステムとして差別されている」ということを問題のメインテーマにしている活動だと思う。盛り上がるきっかけとなったGeorge Floydが殺害された事件でも、加害者の警察官たちへの個人攻撃にとどまらず、社会的な運動に繋がっている。警察官たちはバカだが、そもそもそういうことを許容している、システマティックにこういう事件が起こるようにしている社会への運動になっている。彼が殺されたのは彼が悪いからでも加害者がバカなだけでもなく、社会が悪いからなのだ。ということだと思う。

なので、BLMはアメリカ社会を活動の攻撃対象としている。「アフリカから奴隷として無理やり連れてこられて、奴隷をした後に解放されたが、今でもシステムとして差別されている」ことに対する抗議だ。そうすると待遇改善の目標は究極は黒人の「優遇」にも繋がる。例えば、アメリカ一流大学への入学ではすでにアファーマティブアクションによって人種間で入学テストで必要な得点に差が作られている。アジア系はテストが得意すぎるから合格に必要な点数は高い点数。白人は普通。黒人は低め。でも、それでは足りないという。「そもそもテストで低い得点しか取れないような教育しか受けられないシステム」に黒人を置いているので、点数で優遇するのではなく枠を全人口の人種比率に合わせろ。とか。あるいはこの不公平を是正するには一旦「逆転」させないといけないので人種比率以上に黒人を入学させろ、とか。。。こういう考え方に究極的には繋がるのがBLMでそれは徐々に認められているようだ、こういう考え方や状況は非常にアメリカローカルの問題だと僕は思う。

日本においては、日本には差別がない、というはずは全くなく差別は様々に存在するし個人間での黒人への差別は明らかである。だが、日本には黒人は歴史的にほとんど存在していなかったので黒人に対する「システマティックな差別」はほとんどない(と僕は思う)。これは部落差別が本籍地というシステムでシステマティックに存在していたこととは対比的である。これを見てもBLMがアメリカローカルの要素を多く含んだ活動だということがわかると思う。

2. 大坂なおみがハイチx日本人のハーフということ。

大坂なおみが黒人として認識されることにはある程度「そうだよね」とは思うが、それがイコール彼女がBLM活動をすることに自然に繋がるかというとそうではない。BLMがアメリカローカルな活動で大坂なおみが日本人というだけではない。彼女は父親がハイチの方で、母親が日本人である。

アメリカではハイチ系はむしろ黒人からも差別される存在である。アメリカに住んだ経験を持つ人間からすると、ハイチ系の方はこのBLM運動をやっているコアのメンバーからさえも個人的な差別感情を向けられる可能性が十分に想像できる。弱い立場だ。

さらに、アジア系も黒人からも差別される対象であり、両者のmixである大坂なおみがそのままストレートにBLMにコミットしてBLM社会から受け入れられているのか疑問がある。

 3. 大坂なおみがテニスの高いレベルを目指してアメリカで活動していること

前出のようにBLMはアメリカローカルの活動である要素があると僕自身が考えている中で、大坂なおみアメリカ人でないということは決定的な意味を持つ。BLMは「(先祖が)無理やり連れてこられたafricanの活動」である側面があると僕は思っていて、そうであるならば大坂なおみがBLMの活動をしても「嫌なら帰れよ。好きで来たんだろう。帰るところもあるじゃないか」というようなリアクションもBLM活動家の中からさえでてきうるのではないか。と思う。

 

 これらの理由のため、大坂なおみがBLM活動をすることに純粋に応援もできず、そして本人がこれらの僕が感じる疑問を感じて活動しているのか、それとも全く疑問なく活動しているのか、どうなのか不思議に思っていた。しかし、今回の大会で勝つことでそんなものは吹き飛ばしてしまった。繰り返すが、大坂なおみすごい。

 

大坂なおみのBLM活動のチープさについて

大坂なおみが個人的な(システム化されていない)差別を日本で感じて生きてきたことはおそらく間違いがなく、その中で差別撤廃の活動をすることは蓋然性がある。しかし、彼女がやっているBLM活動やtwitterでの発言はやや安っぽく感じてしまう。マスクに犠牲者の名前を書くというのもなんとういうか陳腐な表現に感じてしまった。

そして、最後に優勝して、マスクの意味を問われて答えるのに、「あなたが受け取ったメッセージはなんですか?」というのはちょっとどうかと思った。

https://www.huffingtonpost.jp/entry/news_jp_5f5d4f34c5b62874bc1dda6f

 マスクがなんらかのアクションを意図して作られているのは明らかでそれをわざわざ着用しているわけで、それを見た人が何かを考えるのは当たり前なので。その上で何を主張したかったのか、何を意味したかったのか、何を目的にしたのか、は、そうやってパブリックにマスクを示した以上、自分の言葉で明確に言うべきだったと思う。僕自身は少なくとも、「大坂なおみがパーソナルにどういうことを感じて生きてきて、どういう考えに至ったか。」そして「そのパーソナルな体験から得た考えをどのようにこのマスクを通じてパブリックに訴えたかったのか」ということを知りたかったし、それを明らかにすることでより大きな影響力を持てたと思う。またそういう影響力をもつべき人だと思う。そしてこの発言は非常に非アメリカ的だと思う。つまりアメリカローカルの活動であるBLMとしても違和感のある発言だと思う。これらを感じながらも、僕は大坂なおみのBLM活動を支持するし、共感する。すごい。結局は大会に勝った影響もあるだろうけど、こういう違和感の中、それが指摘されずに通ってしまう感じ。これは大坂なおみ以外にはなし得ないと思う。すごい。

BLM活動がちょっと彼氏の影響っぽいのとかどうかと思う。蛇足だけど。でも彼氏も大坂なおみと付き合ってからセールスも伸びててすごい。やっぱりすごい。

 

大坂なおみはここで書いたようにたくさんの細かい違和感を包摂して生きているけど、本人のチカラ、本人のスポーツでの成功でそれを一気に納得させてしまう力を持っていて、すごい。その矛盾、両価的さの解決力というか、そういうものを納得させてしまう圧倒的な力、魅力がすごいと思う。

今後も大きな大会にどんどん勝って、ランキングをあげて、そしてその立場にとらわれない活動をしていってほしい。

睡眠医学の権威Kryger先生、医学雑誌でトランプ大統領をディスる

Kryger M. What can tweets tell us about a person's sleep? J Clin Sleep Med. 2017;13(10):1219–1221.

JCSM - What Can Tweets Tell Us About a Person's Sleep?

 

Meir Kryger先生はかの有名なYale大学の教授であり、睡眠医学においてはほぼならぶもののない一番の権威である。

https://medicine.yale.edu/intmed/pulmonary/about/meir_kryger-2.profile

睡眠医学では最も重要な教科書(めちゃくちゃ分厚い)であるPrinciples and Practice of Sleep Medicineの第一著者として知られていて、睡眠時無呼吸症候群の治療を世界に先駆けて研究開発した第一人者である。

http://www.sciencedirect.com/science/book/9780323242882

そのKryger先生が今号のJournal of clinical sleep medicine誌にLetterを投稿されていた。タイトルはWhat can tweets tell us about a person's sleep.

JCSM - What Can Tweets Tell Us About a Person's Sleep?

念の為に書いておくが、Journal of clinical sleep medicineは2016年のインパクトファクターが3.429となっていて、Sleep誌に次ぐ睡眠医学においてはまあまあ重要な雑誌である。アメリカ睡眠医学会のオフィシャルジャーナルとなっている。今回の投稿はLetter to the editor として行われていて、原著論文ではない。Letter to the editorはほぼすべての科学雑誌が採用している投稿方式の一種類で、編集者への手紙という形で掲載される文章で、査読を必要としない形式である。Letter to the editorは査読がないため科学者としての実績にはほぼならず、通例はちょっとめずらしい症例報告や、論文にまで至らないわずかな知見、他の論文への批評などが投稿掲載されることが多い。

さて、そのLetterの中身であるが、タイトルとしては「ツイッターでどれくらい人の睡眠状況が分かるか」という記事であることがわかる。内容としては一応Method,Result,Discussionが記載されていて調査の形式を取っていて、タイトルにはトランプ大統領の名前は入っていないが、行われているのはトランプ大統領ツイッターの分析である。要するにトランプ大統領ツイッター投稿時間を調べると夜間にも投稿することが多いので睡眠時間が短いのではないか、いわゆるショートスリーパーなのか不眠なのかどうなのか。というような内容である。

しかし、問題は序文のBackgroundである。書き出しはこうだ

There is a great deal of public interest in whether President Donald J. Trump is sleep deprived, and whether this may be an explanation for his sometimes apparently inconsistent actions. 

 「 this may be an explanation for his sometimes apparently inconsistent actions.」!!!翻訳すると、「トランプ大統領が睡眠不足かどうか、また睡眠不足が大統領が時折示す明らかに一貫しない言動の説明となりうるかは公の興味である」である。大統領が一貫しない言動を取っているなんて言い切っている。こんなことを言って良いのだろうか、、、しかもLetterとはいえ学会が所有している公的な科学雑誌である。かなりびっくりした。

後半はまあまあ穏やかな議論が行われていて攻撃的な表現はないが、ある時期を境に2つあるツイッターアカウントのうち片方の投稿頻度が減少していて、もしかすると投稿しているのは実際はトランプ大統領だけではなくて複数人いて、そのうちの誰かが首になったりして人数が減っているのではないかというようなDiscussionが行われている。まあなんというか皮肉。

The pattern of Tweets and admissions suggest that President Trump sleeps less than is recommended for optimal health and performance. It is unknown whether he is a “healthy short sleeper.”

が結論であり、「ツイッターの状態からはトランプ大統領の健康が心配される可能性がある。いわゆる健康なショートスリーパーなのかはわからない」とのことであった。

Kryger先生はこの雑誌の発行元であるAmerican Academy of sleep medicineのプレジデントだったこともある先生であり、今のeditorもそんな先生からLetterが来たら掲載は断れないのかもしれない。Kryger先生はもうかなりお年だろうし、なにかあってももう気にならないのかな。。。

しかし、トランプ大統領のアメリカでの嫌われ具合はすごいですねぇ。悪魔のように扱われることも多いし、、、

ちなみにこのLetterの内容については、Kryger先生は「機関にサポートされた研究ではなく、経済的利益相反はない」としている。

暴力の行使を認められているのは国家のみであるが、、、

このところ、その行動が動画で撮影されてインターネットで公開されたこともあって、ジャズトランペッターの日野皓正氏がステージにおいて暴走したという少年ドラマーをビンタした行為が議論になっている。

http://www.hochi.co.jp/entertainment/20170902-OHT1T50176.html

僕は明確に教育目的の体罰に反対の立場で、はじめに今回の日野氏の行動の動画をみて率直におぞましいと思った。しかし、その後の情報を知るにつれて、これについては肯定すべきか否定すべきか非常に複雑な考えが頭を支配した。

僕はこれまで教育目的の体罰について深く考えたことはなかったが、自分自身が小学校時代に理不尽な体罰教師を恨んだ記憶をもとに体罰教師に対して反対の立場をとるようになっていた。しかし、教育現場の崩壊の報道などをみるにつけて、ときおり個々の事象について「これは教師が暴力をふるってしまってもやむを得なかった」と思うこともあって、なかなか矛盾した意見となってしまっていて、しかも今回までそれに気づかなかった。インターネット上の意見でも単純な暴力教師のニュースでは概ね反対の意見が多数を占めるが、今回の日野氏の事象のように賛否両論渦巻く事があるように思う。

体罰で人の心が正しい方向に向かうことは少ない。また、多くの場合の体罰教師は良好な精神の持ち主ではない。良好な精神の持ち主の教師や親が良い意図のもと暴力を使用して、しかも暴力を振るわれた側がそれに良い反応を示すということもわずかにはあるかもしれない。しかし、それは極小の事象として私秘的に行われるべきであり、「そういう趣味の人達が自分たちの中でやるもの」であって、決してそれをもとに体罰全体を肯定すべきではない。こっそりとそれが好きな人たちだけでやってくれ。

しかし、よくある教育崩壊のニュースなどにおける、暴走する子に対して、「どうやってコントロールすれば良いのか。説得して、他の子に迷惑をかけている状態で、その暴走を止めてくれない。最終的にその子を暴力以外でどうすればよいのか」という疑問には体罰反対派は十分に答えていないと思う。どうやらあの暴走ドラマー少年はこれまでも繰り返し暴走をする傾向にあった少年のようでそれを自制しながら育てていくことを日野氏が関与していたようであり、日野氏のあの場面では、下記のまとめにあるようにドラマー少年が長時間にわたって暴走したようだ。

日野皓正(ひのてるまさ)氏の往復ビンタ事件を実際に見ていた感想 - Togetterまとめ

ただの大人のジャズセッション時の暴走であればまだよい。その暴走ミュージシャンはその後一緒に演奏してくれる人がいなくなっていくだけだ。しかし、その後100人程度の少年少女が演奏を待っている状態で独善的に人に譲らず演奏を続けた場合は何らかの方法でコントロールしなければならない。そもそもこういった演奏する少年少女に対する教育の意味をもつ演奏会で4500円ものお金をとっているのにも疑問はあるが、それはいまは置いておいて、バンドマスターがその暴走をコントロールしようとするのは当然である。そして、その暴走をコントロールしようとする行動として日野氏の当日の行動を完全に頭から否定することは僕にはできなかった。確かに少年は声を掛けられ、スティックを取り上げられてもドラムを叩こうとしており、日野氏のあの行動がなければさらに止まらず暴走を続けていた可能性が十分にあると思った。そして、それはあのジャズバンドという集団には許容されるものではなさそうである。

僕の意見はこうである。今回、日野氏が後日語ったインタビューで自らが語っているように、あのビンタが暴走少年当人に対する教育を目的としたものであるなら、日野氏の行為は全く肯定できない。しかし、あのジャズバンドという集団を守るために暴走をコントールする目的をもってなされたものであれば心情的には一部是認される可能性があるが、公に是認することはできない。

集団は育っていくと、その集団を乱す存在が内外に現れる。その存在と戦うには最終的には暴力が必要とされることがある。集団の最終形である国家にはその暴力権が賦与されていて、内には警察力を、外には軍事力を用いることができる。これらには使用には様々な制限があるが国家のみに使用が許された暴力である。逆に国家以外に暴力権を賦与された集団はない。つまり、集団が国家に昇華した時点で暴力権を持つことになる。しかし、これは国家以外の集団で暴力権を必要としないという意味ではない。どの集団でもその継続や利益を脅かす存在は現れ得る。なので、その場合は個々の集団はその暴力権を国家に附託しており、かわりに国家にその暴力を行使してもらう。国家以外による暴力はすべて認められない。

、、、という建前がある。が、個々の事象についてすべて警察やら国家やらと相談するわけにも行かない。学級崩壊やバンド崩壊はその場で起こっていて即座の介入をお願いするのは不可能だし、崩壊を起こしている暴走者も明確に法律違反などを犯しているわけでもない。しかし、明確に集団には悪影響を及ぼしていて暴力以外の方法で止められない。そういう状況は多数ある。この場合に集団を守るために振るった暴力は公に問われれば是認されない。しかし、それ以外でどうやって集団を守るのかと問われると答えはない。そのため、心情的にこの際の暴力を是認する人たちが出現する。どうやら僕も時にそういった意見を持つ人間のようである。

ただし、その心情的な是認は国家とは異なりナニモノにも保証されておらず、今後もその是認を肯定しない人達によって日野氏は攻撃されるであろうし、人格を否定するような発言をする輩もでるであろう。そしてそれに対して日野氏は個人として、そしてあのジャズバンドを後ろ盾として戦うしか無い。日野氏はあの暴走ドラマー少年を教育しようとしたとともにあのジャズバンドという集団を守ろうとしており、その守られたジャズバンドという集団がどのように日野氏に対して感じたのかというのは非常に重要であろう。感謝するのか、そこまでしなくてよかったと思うのか、、、

繰り返すが、暴力は公にはどんな形であれ是認されない。心情的に是認される場合があるというのみである。しかし、ここまで書いて気づくことは、「集団を守るために行われる暴力は、集団によって支持される範囲であっては心情的に是認される」という結論は、「個人を教育するために行われる暴力は、その個人によって支持される範囲であっては心情的に是認される」という意見と全く同じ構造を持っているということである。これに僕は戦慄する。僕は個人の教育を目的とした体罰には否定的な意見であり私秘的に行うべきであると言ったが、同じことを集団を守るための暴力に対して言う人がいるであろうということだ。

個人の支持によっては暴力は是認されないが、集団の支持になると徐々に心情的に是認されるようになり、集団がある一点を超えて国家に昇華すると暴力は公に是認されるようになる。というのは自然なようであって個人と集団・国家の根本的な違いなどを考察する必要があるような気がして、なにか根源的な違和感と疑問も生じる。

「生きる」というのはその過程でこういった法や倫理の疑問点があらわとなっては曖昧なまま進行していきおもしろい。

脳震盪後のけいれんのビデオをYouTubeで検索したという論文

onlinelibrary.wiley.com

Epilepsia. 2016 Aug;57(8):1310-6. 
Concussive convulsions: A YouTube video analysis.

脳震盪後のけいれん。YouTubeビデオでの調査。

 

掲載雑誌はEpilepsia。IF 5くらいの雑誌。てんかん専門誌では最高権威の雑誌。

 

面白い論文だったので。

 

脳震盪後のけいれんが記録されているビデオをYouTubeで検索して分析したという論文。

脳震盪は頭部に強い衝撃を受けた際に生じる症状であり、軽度から重度の意識障害を呈する。要するに「脳が揺れてダメージを受けて意識がなくなる」。

殆どの場合は一時的な意識障害のみが症状だが、重症例では頭部に衝撃を受けたあとにけいれんすることがあることが知られていた。しかし、このけいれんは比較的まれな状態で、実験で再現することも困難であり細部については医学的な知識は限定されていた。

ということで今回の論文。

様々な検索語を使用して調べたところ、脳震盪後のけいれんが映っているビデオが25例、YouTubeにアップロードされたビデオから見つかった。

発見された25例中、けいれんの原因になったのは

暴行6例

スケボー5例

MMA(格闘技)4例

ボクシング3例

サッカー2例

BMX2例

ラグビー、ホッケー、バスケ1例ずつ

という結果。

感想としては、スケボーってやっぱり危険なんだね、という、、、MMAやボクシングより多いとは思わなかった。スケボーの場合練習中からビデオを回していたりということもあって記録されているのが多いというのがあるのかもしれないけど、、、

他の結果としては、発見された全25例中、ほとんどの症例では2回以上頭部に衝撃を受けていた。全体で男性は24例、女性1例で圧倒的に男が多い。ヘルメットをしていたのは25例中たった1例だったという。

今回の知見として、脳震盪後のけいれんには2つ相があり、強直したあとけいれんする。

けいれん前の症状初期の強直相ではフェンシング肢位をとる事が多い。(昔のK-1ピーター・アーツか誰かがノックアウトされた時に片手を上げたまま硬直して倒れていったのが思い出される)

その後3-10秒くらいでけいれんが始まるようである。

このリンクのファイルに論文内でみつかったYouTubeビデオのリンクが載っている

epi13432-sup-0001-SupInfo.docx

いくつか見た感想としては、スケボーはやはり危険。ジャンプして高いところから飛び降りるトリック中に板がなにかに引っかかって足がすくわれたような形になり、半回転して頭から落ちている。受け身が取りにくい。BMXを少しかじった身からすると、BMXはヤバイと思ったら自転車を投げて自分は転がるということができるため、そんな簡単には頭から落ちない。だから、上級者になると簡単に一回転するようなトリックができる。しかしスケボーはどうもそうは行かないようだ。

 

てんかん発作や夜間の睡眠行動異常は突発的に起こり、いつ起こるか予測ができないため、医師が直接観察することが難しい症状である。なので、必要時は入院下にビデオモニタリングを行い症状を観察する。これはてんかん発作や睡眠行動異常が繰り返し起こる症状だから可能であり、また一度の症状の発現で致死的になったり障害が残ったりしにくいから可能な方法である。

脳震盪後のけいれんも同様に医師が観察することが難しい症状であるが、これは入院後に狙って起こすことが出来ない一度きりの症状であり、また致死的になったり障害が残る可能性のある症状であるため、てんかんや睡眠行動異常と同様の戦略が取れない。そのため、YouTubeなどの大量で容易にアクセスできる形でビデオが残っている場で検索して見つけるというのは正しい方策であり、それによりこれまでほとんど医療者が見ることができなかった症状を集積し分析するすることが可能になっている。面白い論文。

現在はかつてないほど映像の記録及び公開が容易な時代であり、その恩恵を受けた論文とも言えるが、今後はさらに映像の記録や公開が容易になると考えられる。他のタイプの突発的な症状・現象がもっと捉えられるようになるかもしれない。

 

 

http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1525505017304225

こっちはPinterestてんかんについての投稿をしらべた論文。

Pinterestではてんかんについて投稿された記事のうち、1/5がけいれん重積についてのことだったという内容。

SNSでなにかをサーベイすることも増えていくかもしれない。

妊娠中の喫煙は児の精神疾患に関係「しない」?

Association Between Maternal Smoking During Pregnancy and Severe Mental Illness in Offspring

jamanetwork.com


妊娠中の喫煙と児の重度の精神疾患の関係
アブストラクトを読んで印象的だった。

 

喫煙の害が言われて久しい。僕はかつては喫煙者だったが、現在は一応禁煙に成功して、5年程度喫煙せずにすんでいる。これは二度めの禁煙で、1度目は1年程度で喫煙者に戻ってしまった。1度目は中途半端にチャンピックスを飲んでやったのだが、チャンピックスは明らかに効果があり、飲んでいる間は明確に喫煙欲求が減少した。副作用の吐き気も強かったが、一旦止めることには明らかに良い効果があった。さらになんとなくだが、ニコチンレセプターもチャンピックスがダウンレギュレーションしているような感じがあって、飲むごとに急速に喫煙欲求が減少していっているような感じがあった。ただ、やめて2ヶ月程度は眠気がひどくて、仕事にならなかったことを覚えている。その後は1年程度で喫煙者に戻ってしまったが、2度めの禁煙で現在まで続いている。「禁煙なんか簡単だおれなんかもう10回も禁煙している」的なジョークがネットで散見されるが、禁煙は何度トライしたって良いので、一度の失敗でしょげることなく禁煙する気になったら何度でも禁煙すれば良いと思う。そのうちやめられるのではないだろうか。
二度目の禁煙は米国留学がきっかけで、長い海外へのフライトや、その後のバタバタでタバコを吸う気にもならなかったこと、留学ということでテンションがあがっていて禁断症状に気づかなかったことなどで成功したのだと思う。
しかし、現在は喫煙はもはや重大な罪のようであり、いまの喫煙者叩きにはそれはそれで違和感を覚える。かつて喫煙していた頃、15年ほど前だったか、千代田区で路上喫煙の禁止条例が出来て大激論が巻き起こった。ちょうどその頃は千代田区の駅に降りて文京区の病院に勤務するというスタイルだったから僕にも影響は大きかった。今記憶している範囲でも、いくつもレジスタンスのような形で千代田区で喫煙をして罰金を払わされる人やトラブルのニュースが絶えなかった。それが現在ではむしろマナーを守らない喫煙者はどのように人格攻撃をしても良いような雰囲気で、時代とは変わるものだなーと思う。僕自身もやめたけど、僕の周囲でも喫煙者は激減しているのをはっきりと感じる。
渋谷ですら路上喫煙禁止となったが、15年前のクロスビートだったか音楽雑誌で、「渋谷のセンター街でも喫煙禁止になったら暴動が起こる」などというコラムを読んだ記憶があるが、結局渋谷でも路上喫煙は禁止になって、暴動にもならず静かに受け入れられていった。啓蒙というのは大きな力を持っているんだなーと思うとともに、時代が変わるとこんなに人の考えが変わるのかと怖くなる。いまや受動喫煙についてのみではなく、三次喫煙(タバコを少し前に吸った人の服などについたタバコ関連物質を摂取させられること)まで議論されている。
喫煙は飲酒とともに長い娯楽として歴史があり、それとともに文化もある。これも禁煙言論が大きくなった時にdictionaryだったかR25だったかのフリーペーパーでの議論があって印象深かったのを思い出す。例えば小さな飲み屋で隣の人からビールを勧められて一緒に飲む。例えば隣の人にタバコを一本もらう。それをきっかけに話がはずみ、仲良くなる。これはありうる話であり、液体や気体を共有することでなんらかの気分が醸成されて人と人の交流が産まれることがある。これが食べ物だとなかなかそうはいかない。隣の人に「これうまいから」と小皿を勧められてもちょっと食べにくいし、隣の人の食べ物を美味しそうだからといっていきなりもらうのはケンカのきっかけになりかねない。
しかし、そういった喫煙を擁護する高尚な議論ももはや消えてしまった。いま聞こえるのは「喫煙者は人間扱いされない」という愚痴に似た抵抗ばかりである。こういった言説を発するのもエネルギーがいることであり、喫煙擁護の論陣は結局はニコチン依存症者の依存症行動によるものだけだったのだろうか。ネットでは大麻解禁論もあり、これはこれで別で論じたいが、喫煙にこれだけ拒否反応を示しておいて大麻は解禁論が大きくなっているなどアンバランスさには驚くばかりである。
さて、完全に話がそれた。表題の論文である。喫煙が妊娠に悪影響があるのは当然で、妊娠中の喫煙は厳に慎むべきである。喫煙による一酸化炭素の悪影響があり早産は喫煙者では1.5倍以上の発症率となるという。また、出産後も「乳幼児突然死症候群SIDS:Sudden Infant Death Syndrome)」の発生率が高く、子供の身長や学力が低くなる傾向が見られるといわれる。では、精神疾患の発症率についてはどうなのだろうか。
この論文では、スウェーデン人で研究を行い、1983年から2001年に産まれた1680219人!! を対象としている。自己申告での母親の喫煙の有無を調べている。
結果としては喫煙した母親から産まれた児は、将来 severe mental illnessを発症するリスクは高かった。(moderate喫煙でHR1.25, high level喫煙でHR1.5)
しかし、他の兄弟との関連性などを除外すると将来 severe mental illnessを発症するリスクと母親の喫煙の影響の関係は低くなり、有意ではなくなったという。(moderate喫煙でHR1.09, high level喫煙でHR1.14)
要するに妊娠時に喫煙する群はタバコと関係なくそもそもsevere mental illnessハイリスク群であり、喫煙していなくても児がsevere mental illnessを発症する可能性はすでに高いということのようだ。
感想としてはそう言われればそうだろうと思うが、喫煙のリスクも当然あるはずでそれが証明できなかったのは意外であった。Conclusionで「この研究は妊娠中の喫煙がsevere mental illnessのリスクとなることを証明することに『fail』した」と書いてありfailというのが研究者のくやしさを表している感じがして面白かった。

今後はさらに喫煙者は減っていくであろうと考えられるが、欧米では大麻解禁のニュースが続いており、大麻は使用者が増えていくのかもしれない。30年後には大麻路上喫煙の許可の議論や禁止の議論が日本でも行われているのだろうか。それにともなって妊娠に対する大麻の害や利益?の研究も行われていくと思われる。